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鳥取地方裁判所 昭和37年(行)1号 判決 1966年2月25日

原告 山名克子

被告 東郷都市計画事業松崎駅前温泉土地区画整理施行者 東郷町

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、別紙物件目録の従前の土地欄記載の土地に対し、同目録換地欄記載のとおりなした換地処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は別紙物件目録の従前の土地欄記載の番号一ないし七の土地を所有していたが、これは昭和二八年二月被告施行の東郷都市計画事業松崎駅前温泉土地区画整理施行区域に編入された。

二、ところで、都市計画事業として土地区画整理を施行するに当つては、特段の事情のない限り従前の土地を実測し、その地積を基準として換地処分をなすべきであるに拘らず、被告は東郷都市計画事業松崎駅前温泉土地区画整理施行規程(以下施行規程という)第四条により、被告が都市計画として建設大臣の命令を受けた日である昭和二八年二月一〇日現在の土地台帳の地積を基準として換地処分をなした。

三、而して、原告所有の前記土地の地積は公簿上は合計二九七坪四合二勺であるが、実測地積は合計四〇六坪八七九五であり、従つて原告は右実測地積と公簿地積との差積一〇九坪四五九五に対しては、本件換地処分により何らの代償(換地、清算金)を受けることなく、被告に横奪されたものである。

四、従つて、土地台帳地積を基準として換地処分をなすことを定めた前記施行規程第四条は、憲法第二九条に違反する無効のものであり、これに準拠してなされた本件換地処分も当然無効というべきである。

よつて、これが無効確認を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ、被告の主張に対し、

被告主張の施行細則第一条に定める期日までに、土地台帳の更正手続をしなかつたことは認める。

と答えた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項中、原告主張の土地が本件土地区画整理施行地域に編入されたこと及び物件目録中番号四、七の二筆の土地が原告の所有であつたことは認めるが、その余の土地が右編入当時原告の所有であつたことは争う。

二、同第二項中、被告が土地台帳の地積を基準として換地処分をしたことは認めるが、その余の主張は争う。

三、同第三項中、本件七筆の土地の公簿地積の合計が二九七坪四二であることは認めるが、その余の事実は争う。物件目録番号六の土地は換地処分の行われた当時である昭和三五年中原告の所有でなく、訴外益田忠雄の所有であつて、被告は同訴外人に対し換地処分をしたものである。

四、同第四項の主張は争う。

と答え、被告の主張として、

被告施行の本件土地区画整理においては、施行地区内の土地各筆の地積を実測しない建前であるが、それは実測が頗る困難であり、もしこれを実施するにおいては事業の進行に支障をきたすだけでなく、莫大な費用を必要とするためである。けだし実測により地積を確定するためには、その前提として土地の境界が明確でなければならないが、もし境界について紛争があると、裁判所の判決確定まで実測は不可能となり、ひいては換地処分も実施できないことになる。而して本件都市計画事業は、昭和二八年二月一〇日建設大臣から昭和三〇年度までに完了するようにとの条件附で施行を命ぜられたものであるから、各筆の実測をしていては到底事業の完了はできないものというべきである。更に実測に要する費用も莫大で、これは結局整理地区内の土地所有者の負担に帰するのであるから、土地台帳地積を基準とする本件換地処分を攻撃する原告の請求は、利害関係人の意思にも反する失当なものである。

のみならず、被告は施行規程第四条第一項において、昭和二七年一二月一日現在の土地台帳地積により換地処分をなすことを規定しているが、同条第二項には「前項の規定にかかわらず、町長が別に指定する期日までに土地台帳の地積を更正したものについては、その地積による。」旨を定め、東郷都市計画事業松崎駅前温泉土地区画整理施行細則(以下施行細則という)第一条において、施行規程第四条第二項に定める期日を昭和二八年三月二四日と規定しているのである。そうして台帳地積の更正を認めたことは、結局更正した者については実測地積による旨を定めたのと同様であるから、原告としては前記期日までに右更正手続をなすべきであつたにも拘らず、これを怠り、その後に至つて台帳地積による本件換地処分の不当を主張するのは失当である。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、別紙物件目録記載の番号一ないし七の従前の土地が、すべて原告の所有であつたか否かの点はさておき、右七筆の土地に対し、被告が土地台帳地積を基準として換地処分をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、先ず原告主張の施行規程第四条及びこれに準拠してなされた本件換地処分が、憲法第二九条に違反し無効であるかどうかについて判断する。

成立に争いのない乙第二号証の二(施行規程)によると、その第四条第一項に、換地は昭和二七年一二月一日現在の土地台帳地積による旨が定められ、同条第二項には「前項の規定にかかわらず町長が別に指定する期日までに土地台帳の地積を更正したものについてはその地積による。」と規定されていること、更に成立に争いない乙第二号証の三(施行規則)によると、町長の指定する前記期日は昭和二八年三月二四日とされていることがそれぞれ認められる。而して、右期日までに原告が土地台帳の地積を更正しなかつたことは当事者間に争いがない。

ところで本件のような土地区画整理の施行においては、施行区域内の各土地を逐一実測し、これに基いて換地処分を行うことが合理的であり、且つ土地所有者等の権利の保護にも厚いことはいうまでもないところであるが、実際問題として従前の土地を全部実測するということは、長い年月と莫大な費用を要し、ひいて事業の進行に支障を生ずることは容易に推測できることである。本件についてみても、成立に争いのない乙第一号証、証人藤田長蔵、同本庄公男の各証言によれば、従前地の実測をすることは事業の完了を殆ど不可能とすることが認められる。従つてこのような場合、台帳地積主義を採用し、これに加うるに一定期日までに土地台帳地積の更正を認め、希望者には実測地積により得る途を開いておくという方法をとることも、公共の福祉を増進するための都市計画事業遂行上やむを得ないものというべきである。

而して、本件においては土地台帳地積の更正をなし得る機会が与えられていたのに、原告がその手続をとらなかつたことは前認定のとおりであるから、施行規程第四条に則つて被告がなした本件換地処分を目して、憲法第二九条に違反する無効のものということはできないものと解するのが相当である。

三、そうだとすれば、別紙目録の番号一ないし七の土地が全部原告の所有で、且つその実測地積が原告主張のとおりであるとしても、本件換地処分が違憲無効といえないことは前述のとおりであるから、その余の争点について審究するまでもなく、原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。

よつて民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋文恵 中村捷三 横山武男)

(別紙)

物件目録

従前の土地

換地

番号

地名

番地

地積

地名

番地

地積

1

東伯郡東郷町大字中興寺字浜田

四七一の一

田 一七歩

東伯郡東郷町大字旭

一四六

宅地 四四坪三

2

四七一の五

田 八歩

3

四七二の四

田 二一歩

4

四七一の四

宅地二三坪四二

一四四

宅地 一二〇坪二九

5

四七二の五

田 四畝七歩

6

四七二の三

田 三畝一〇歩

一四七

宅地 四四坪八二

一〇九

宅地 三八坪一六

7

四七一の二

鉱泉地 一坪

一四五

鉱泉地 一坪

計 二九七坪四二

計 二四八坪五七

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